ハロハロ


道路や道の駅、地域振興などをテーマにした連載コラム。万葉時代には「美知」とも書いた「道」を、先祖代々が今日まで利便や知識も運んでくれる生活基盤として大切にしてきたことを忘れてはいけない、と説く。

み・ち・つ・う・し・ん 道ルネッサンス

 

 

 

 

谷口博昭さん(当時 国土交通省道路局長)


多様な存在・・・原点に返る

日本は「みちの文化」と言われています。江戸時代までは、人の行き来は街道でした。明治になり、富国強兵という乙とで鉄道が主流となった乙ともあり、本格的なモータリゼーションに対応した道路整備が始まったのは、つい戦後のことです。それから半世紀。道路行政も「みち」について、もう少し原点に返り、人間性、景観、自然回帰なりを見つめ直す、いわゆる「道ルネッサンス」の時期に来ているのだと思います。ここ数年、道路整備に対する世論の厳しさは増し、もうこれ以上の道路整備は不要という道路悪役論すら聞こえるようになりました。

 

しかし、道路は古来、人々や地域を結ぶ基盤であり、日常生活かち習俗、伝統、文化などと深くかかわってきたはずです。道しるべという言葉もあるように、他のいろいろな目的、新しい分野につながる手段です。道しるべには水を汲んだり神を祭ったりした地域の記憶が込めちれているのです。万葉時代には「美知」とあてて書くことが多かったようです。みちの「ち」 には「あっちこっち」の意味もあり、道の分かれたところが「ちまた」で、そこが集落になっていったわりです。

道ルネッサンスは、こうした原点に返り、道路を多様な存在としてとらえ直すことかち始めたいと思います。

 

「道の駅」は、道路を利用する方のための休憩機能、地域の方々も含めた地域情報発信機能、道の駅をきっかけに活力ある地域づくりを行う地域連携機能という、三つの機能を併せ持っています。

つまり道の駅は地域の重要な交流拠点となるもので、まさに、これが道本来の姿でもあるわけです。

現在、道の駅は全国で785カ所あり、多くは地域の交流拠点として重要な役割を発揮しています。

道ルネッサンスで、私たちは道の駅に学び、道路本来の役割を見つめ直すことが大切です。

これまでの道路行政で反省すべき点は反省し、改めるべきは改め、守るべきものは守り、さちに付加価値も加える、ということが大切です。

 

「ルートプレス21st.」新聞は、道の駅などで、道路利用者や周辺地域住民と道路関連行政、団体などのコミュニケーション促進をめざしていると聞き、道ルネッサンスに一役買ってくれるのでは、と期待します。

私も、道路が真に安全で快適な国民生活の基盤として、次世代に喜んで継承されるよう、力を尽くしたいと思います。

 

≪0号:2005年(平成19年)7月≫

国土と歴史文化の継承

昨秋、日光砂防を見る機会がありました。北側一雄・前国土交通大臣が富山の立山砂防を視察、幸田文の著作『崩れ』という名文を読まれ、砂防の重要性を強調されていました。

男体山は海抜2500メートルを少し下回る山で、砂防堰堤は1100メートルにあります。1974年(昭和49年)から8年かけてかさ上げするまでは非常に小さなダムで、河口の被害もありました。下からセメントを運び、付近の石を基にした自然景観豊かな堰堤です。当初計画した高さは400~500メートルですが、それでは災害を防げないと、1100メートルまで高くするため、工事用道路を作り立派な砂防堰堤を築きました。完成以来大きな災害はないそうです。工事用道路を使わずに行ける手前の砂防堰堤は開放し、見てもらえるようになっています。

 

私は1100メートルの所を見て、ここがたびたび土砂被害を受けた地域で、家康を祀った東照宮も堰堤で守られているのだ、と肌感覚で実感できました。

 

ヨーロッパと日本は文化の違いもありますが、自然条件の厳しさの違いもある、と思います。ヨーロッパは、山が高く厳しいから、平地に城壁を築いたシティに住んでいます。

 

わが国は、温暖で山里に住みやすい半面、地震もあるなど厳しい面は多々あり「脆弱国土」と言われます。しかし、その地域に住むことで、地域が培ってきた地域文化や歴史なども継承されると思うのです。

 

都市と地方の地域格差が問題になっています。過疎で老人世帯が多い「限界集落」などの問題はきちんと対応する必要があります。同時に、山里や中山間地域といわれる所を一定レベルで保全することで、日本の自然環境が守られると考えています。

≪第17号:2008 年(平成20 年)2 月≫

国土守るチャレンジ精神 

中国の四川大地震やミャンマーのサイクロン被害を見て、改めて国土保全の重要性、国土形成の必要を痛感しました。日本はもっと独自の文化に自信と誇りを持つべきです。日本の文化、多様性を世界に広めるため、情報を上手に発信して、世界に貢献すべきだ、と考えます。

 

ドイツの政治学者が「沈黙の螺旋理論」ということを言っています。黙っていると多数派がますます勢いづき、意見を言わないとさらに少数派になってしまう、と言います。情報発信は自信と誇りがなければ出来ません。土木技術者に自信と誇りを持って、自ら発言することを望みます。

 

日本で最初の溜め池、狭山池を作ったのは東大寺の僧行基で、それを再興したのも僧重源です。1000年にも及ぶかさ上げの歴史は、日本の治水文化の象徴です。明治初期にも大きな志を持った人物がいます。度重なる信濃川の氾濫を防ぐため、大河津の分水路を作った青山士(あきら)や、琵琶湖疎水を作った田辺朔郎ら先達。青山博士は日本人でただ一人、パナマ運河の開削に加わり、帰国後も東京の荒川放水路の設計・工事監督を務めました。

 

田辺博士は、東京遷都で衰退が懸念された京都のため、大学を卒業したての23歳で、琵琶湖疎水の責任者になりました。秀吉以来の都へ琵琶湖から水を引く夢を実現させたのは、若い才能と情熱を信頼した当時の知事の自信に満ちた抜擢です。田辺博士は、恩師ヘンリー・ダイアーの言葉を引用し、工事誌の扉に「少々の失敗に負けず、若い人が活躍でき、時代を切り開くような技術に挑め」という主旨の、チャレンジ精神の大切さを記しています。

 

沈黙の螺旋理論に陥らず、どんどん発言すべきです。小さく始まってもよい。大きな輪に広げるため人を巻き込む。良いテーマで良い動きをすれば世の中を変えられる、と信じて行動してほしい。世界に冠たる国土づくりの技術を持つ、日本の技術者に今、それを望みたい、と思います。

≪第18号:2008 年(平成20 年)6 月≫

国土づくりの輪を 

国土交通省も大臣が谷垣禎一・前自民党政調会長に代わられ、新しい体制となりました。財政政策のプロの方なので、これからの国土づくりに大いに指導力を発揮してくださる、と思います。

 

私たちは、今後の日本の国土づくりがどうあるべきかを、しっかり考えて実践していかねばなりません。このため、7月4日に閣議決定された国土形成計画を受け、地域の実情にあった特色ある広域地方計画を策定することとしています。道路はもちろん、急傾斜地、治水、港湾、空港など、安心・安全な国土づくりは、まだまだなすべきことが山積しています。

 

地域格差が問題になっていますが、地域再生のために「地域自立・活性化支援」「民間都市開発の支援」「地域公共交通の活性化と再生支援」の3つの制度が、新たにスタートします。

 

行政の大きなうねりとしては「国から地方へ、官から民へ」がありますが、それぞれがパートナーとして連携を強めることが求められます。その中で、私が期待したいのは、地域の社会資本整備には何が必要で、重点をどこに置くか、という根本について、地域から知恵を出してもらい、地域に頑張ってもらって、主体的に取り組んでいただきたい、ということです。

 

新たな制度を有効に活用していただければ、地域間の切磋琢磨が国全体を良くしていくことにつながる、と考えます。国はそのコーチ役です。国と地域のコラボレーションと同時に、市民や住民参加で主体的に国土づくり、地域づくりに関わっていただくことで、本当に必要な国づくりが始まるのです。

 

先の国会では道路特定財源問題がクローズアップされましたが、次世代に自信と誇りをもって引き継げる、これからの国土づくりをどう進めるかについて議論を深めていただきたいと思います。

 

世界に例の無いスピードで少子高齢化が進むわが国で、どんな社会資本整備の将来像を描くか、それが問われている、とも言えましょう。

≪第19号:2008 年(平成20 年)8 月≫

外向きに、未来へ

麻生太郎首相は、初の事務次官会議で「官僚4原則」を訓示しました。「スピーディーな仕事」「悪い情報ほど早く報告」「省益を捨て、国益に徹する」「これは自分の仕事ではないと言わず、自分の仕事を探せ」の4項目で「公務員の心得」というべきものです。「職員が誇りを持ってやってもらうように…」とも述べています。

 

税金の無駄遣いなど公務員への批判が高まっており、襟を正してモラルの向上に取り組むよう、自戒しています。本来あるべき仕事に真摯に取り組まなければと思う一方、職員が自信を失っているやに思え、気がかりです。

 

「国から地方へ、官から民へ」の流れの中「無駄ゼロ」の推進など状況は厳しいですが、国交省も本来のミッションをどう遂行するかが問われます。

 

広範な業務を各部署が厳正、的確に遂行することが、信頼回復の第一歩。職員が委縮して身をすくめていては、本来のミッションを十分に遂行できません。与えられた役割をどうこなすか、熟慮のときです。

 

私は、情報ギャップ、コミュニケーションギャップによる誤解を解消し、アカウンタビリティー(説明責任)の向上に努めることが大切、と考えます。

 

特にスピード感、多くの業務を担う現場と本省との温度差をなくし、内外の様々な意見を真摯に受け止め、コミュニケーション向上に努めることが重要です。「communicate」の原義は「他人と共有すること」。情報、意見、気持ちを相互に伝え合って価値感を共有し、一体となって、将来世代に恥じない的確な対応をしたい、と思います。

 

「沈黙は金なり」と言いますが「雄弁は銀なり」とセットの諺です。本来の意味は「沈黙にも効果があるが、説明にはかなわない」だそうです。

 

「男は黙って…」でなく「聞こえているか」「見えているか」「伝わっているか」チェックしながら情報収集し、自信をもって発信していきたい。

 

内向きから外向きに、過去から未来へ、気持ちを切り替えたい、と思います。

 

≪第20号:2008 年(平成20 年)10 月≫

「ピンチはチャンス

経済の急激な落ち込みを受け、公共投資がピーク時の半分以下になっている中で「公共投資で内需拡大を」の声が上がっています。

 

民間資金の活用も含め、技術革新を軸に、公共事業の将来像を探ることが求められている、と言えましょう。ここで大切なのは、当面の短期的対策と、中長期的な事業を分けて考える視点です。短期的には緊急対策としての「景気と雇用」です。これは、今動いている事業で対応することになります。

 

中長期的には「新しい世紀の新しい公共事業が必要」と考えます。地球温暖化、省エネ、省資源、リサイクル。或いは防災・減災や維持・更新などに、技術革新、技術開発を織り込み、新たな需要を創生することではないか、と思います。

 

もう一つ大事な点は、都市と地方では求められるものが異なる、ということでしょう。都市は「街づくり」の視点が重要になります。例えば「日本橋再生」は、道路の問題だけでなく、川と周辺の街づくりが大切、ということです。

地方では、農林水産業との関連が課題です。地域にいるからこそ、地域の国土保全や環境、歴史、文化に貢献できます。建設業も農林水産業を含めて考える時代だ、と思います。

 

都市でも地方でも、時代の最先端技術を使えるよう、技術開発が欠かせません。日本はモノづくりが国の基軸ですから、技術革新によって成長するしかありません。幸い日本は技術大国で、その素地は十分にあります。

 

最終的に、国づくりは人づくりだと思います。今、雇用が非常に厳しい状況ですが、若い人がそれなりに活躍できる場を創出するには、何が必要なのか。そのためには、一時のことだけでなく、「国づくりの将来像」を描くことが大切です。

「ピンチはチャンス」として、中長期的な視野を持ちながら、公共事業のあり方を考えることが今、求められている、と思います。

≪第22号:2009 年(平成21 年)2 月≫